シンガポールの不動産投資信託(REITs)は、持続可能性レポートにおいて気候変動に関する開示を行っており、その多くが初めてこの分野に取り組んでいます。しかし、国際的な競合他社に比べて、脱炭素化に向けた具体的な指標と目標を設定する点でシンガポールのREITsは劣っているという課題が浮上しています。今回は、EYとシンガポールのREIT協会(REITAS)が行った調査結果を紹介し、シンガポールのREITsが気候変動にどのように取り組んでいるか、進展と課題について考察してみましょう。
シンガポールREITsの気候変動に対する取り組み
シンガポールのREITsは、最新の持続可能性レポートで気候変動に関する開示を行っています。これは、シンガポール取引所(SGX)の規制によって、2022年1月1日以降の財政年度から義務付けられたものです。調査によれば、45%のREITsはこれより前から気候変動に関する報告を始め、一定の成熟度を持っているとされています。
気候変動への開示のカバレッジとクオリティ
調査では、気候変動への開示についてカバレッジ(情報の開示レベル)とクオリティ(情報の質)の2つの側面が評価されました。結果を見てみましょう。
カバレッジ(Coverage)
S-REITsは、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の4つの柱であるガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標において、気候変動に関する報告のカバレッジにおいて、国際的な不動産市場に比べて優れた成績を収めています。特に、ガバナンスではS-REITsは100%のカバレッジを持っており、国際的な競合他社の84%を上回っています。
クオリティ(Quality)
S-REITsはクオリティにおいても多くの柱で国際的な競合他社に対して優れた成績を収めています。例えば、ガバナンスではS-REITsは63%のクオリティを持っており、国際的な競合他社の43%を上回っています。
課題と改善の余地
一方で、S-REITsが改善の余地を持つ領域もあります。特に、気候変動に関連するリスクと機会を評価し管理するための指標と目標に関する開示が不足しています。S-REITsの約30%しかネットゼロコミットメントを開示しておらず、その姿勢も様々です。また、ネットゼロコミットメントを具体化するための中間目標についての開示も限られています。
EYのNhan Quang氏は、「スコープ3排出など、価値連鎖全体にわたる気候関連リスクと機会を評価および管理するための指標とターゲットに関する議論を全体的なリスク管理と戦略的計画、投資、予算計画などに統合し、パフォーマンス測定の詳細度を向上させるために技術を活用することができます」と述べています。
リーダーシップの重要性
気候変動に対する取り組みは、企業のサステナビリティへのリーダーシップに関連しています。S-REITsが気候変動に積極的に取り組むことは、テナント、従業員、コミュニティに持続可能な実践を示し、業界全体にサステナビリティの概念を広める役割も果たしています。さらに、シンガポール国外への投資が増えるにつれて、S-REITsは他の地域に持続可能な実践を導入し、業界に影響を与えることが期待されています。
SGX RegCoの今後の取り組み
シンガポール取引所(SGX)は、TCFDの推奨事項に基づいた義務的な気候変動レポート提出の段階的アプローチを発表しました。これにより、上場企業は気候に関連する開示を行うことが義務付けられました。SGX RegCoは2021年にこれを発表し、優先された5つの業界の上場企業から開始されました。気候に関連する報告は、金融およびエネルギー業界、農業、食品、森林製品業界の発行者に対して2023年度から義務付けられます。その他のすべての上場企業、S-REITsを含むすべての上場企業は、「適用または説明」の基準で気候変動に関連する開示にTCFDの推奨事項を適用する必要があります。
また、国際持続可能性基準委員会(ISSB)は、IFRS持続可能性開示基準を発表し、これに基づいてSGX RegCoは現行の上場規則に関する変更を検討する予定です。これにより、気候変動に対する強力な移行計画を持つ企業は資本市場へのアクセスを維持しやすくなり、国際的なサプライヤーのデューデリジェンス要件を満たすのが簡単になるでしょう。
まとめ
シンガポールのREITsは気候変動に関する開示において一定の進展を遂げていますが、引き続き指標とターゲットの設定に取り組む余地があります。気候変動への取り組みは企業の持続可能性とリーダーシップに関連しており、今後の改善に向けて連携とテクノロジーの活用が必要です。SGX RegCoも気候変動に関する報告に関する取り組みを強化しており、企業にとってはサステナビリティへの取り組みがますます重要になるでしょう。シンガポールのREITsが気候変動への取り組みをリードし、持続可能な未来に向けて前進していくことを期待しましょう。