投資におけるバズワード化した技術への落とし穴

流行りのモノや最先端と言われる技術など、世間に認知されバズワード化するようなものはハイグロース投資家がこぞって投資したくなるテーマだと思います。ホンダジェットを開発した藤野氏のこの記事はビジネス観点での"事業投資"の話ですが、株式投資家にも共通することは多いなと感じました。

例えば2020-2021年初頭でのSPACブームの時には、まさにこの記事で取り上げられる空飛ぶクルマことeVTOL関連銘柄や宇宙銘柄がこぞってSPAC上場し、バブルを形成した後、その株価は大暴落を迎えました。さらに直近ではWeb3、NFTというバズワードに関連するものとして、FTX事件による仮想通貨の暴落なども起きています。

 

1970代はコンコルドのような超音速旅客機が話題になったものの、事業としては成功せず、eVTOLも何十年も前から提案されているものの事業化には至っていません。

今よく話題に上る「空⾶ぶクルマ」というコンセプトやVTOL(垂直離着陸機)は、何十年も前から何回も提案され、開発もされたりしています。

 しかし航空機開発の現場では、新世代の⼈が⼊ってくるともちろん新技術は導入されますが、深い経験を積んだベテランが引退し、本質的な航空機開発のノウハウが世代間で伝承されなかったりします。「俺だったらできる!」という若い世代の人たちが入ってきて開発をゼロから進めても、経験が浅いので昔起こったことと同じような壁につきあたり、開発が⾏き詰まってしまうような歴史が繰り返されたりします。

コンコルドも経済性、環境性、安全性の観点から普及は難しく、技術的に解決しなければいけない問題の他、インフラや規制など克服しなければいけない問題が山積みでした。世間的にはキャッチーなバズワードで投資を呼び込むものの、事業化までは長い年月が必要で、そうなると短絡的な投資家は実現前に離れていってしまいます。

キャッチーなバズワードがあると、とても魅力的で興奮するものです。私がいつも言っているのは、「ガートナーズ・ハイプ・サイクル」の存在です(編集注:米調査会社のガートナーが毎年発表する2000以上のテクノロジーをグループ化して、それぞれの技術について成熟度、採用度、社会への適用度などを示した図)。

 「空⾶ぶタクシー」のようなバズワードがあると新世代の⼈はその魅力的な夢に⾶びつきます。いわゆるPeak of Inflated Expectationです。しかし実現するにはさまざまな壁があって現実というものに直面して、徐々に期待値が下がり幻滅して(Trough of Disillusionment)、そこからまた徐々に問題をクリアして上昇していき(Slope of Enlightenment)、最終的に実現できる。それが、激動期の過程、ガートナーズ・ハイプ・サイクルの現実です。激動期という⾔葉を使うときには、そういった冷静な技術視点や時間軸、基準を持っていないと、マネジメントは⼤きな判断ミスを起こしてしまいます。

ガートナーズ・ハイプ・サイクルとは下記のようなもので、こちらは2022年版のものになります。話題のWeb3やNFTは"「過度な期待」のピーク期"にいます。

 ⼀般論として、バズワード化している多くの技術には落とし⽳があります。マネジメント側の多⾯的な技術評価がまだ十分にできていないのに、世間の過度な期待に反応してしまう。さらにそれを投資家もあおるので、現実を直視しないで見切り発車で決定してしまうケースも少なくありません。つまり技術面、マネジメント面で適切な判断を行わずに間違いを起こしてしまうリスクがある。

 投資家が金融的な面からのアジェンダでそれをあおることはある程度仕⽅ないことですが、経営者側としては、そういう状況に遭遇したときに「流行に乗り遅れてはいけない」と慌てて⾶びついてしまうことには注意が必要だと思います。技術の激動期ではスピード感をもって、そして素早く行動することが重要ですが、慌てて行動してはいけません。

藤野氏がホンダジェットの開発を進めていた時にも、超小型機ブームが起き、マイクロソフト元幹部が立ち上げた小型ビジネスジェット会社など、多くの会社・投資家が「バスに乗り遅れるな」と次々に参入してきましたが、ほとんどは事業化に至らずに倒産しました。

 

投資においてもFOMOと言われ、乗り遅れることに対する恐怖で株を買う事象が取り上げられます。バブル期に株価が急騰していくのは、まさにFOMOが要因の一つになっています。今のベアマーケットでは、大底で買おうとトレンド転換を確認せずに先走りしたものの、さらに株価が下がってしまうケースも該当するでしょう。

 

私自身、eVTOLや宇宙,バイオテックなど最先端テクノロジー分野に興味があり、関連株への投資も選好しているため、この藤野氏の"事業を行っている側からの視点・言葉"を肝に命じ、安易な投資は避けるよう改めて感じました。