Singapore REIT Synposium2022 レビュー②:シンガポール国内メインのREITsセッション

シンガポールREIT関連で最大のREITイベント REITs SYMPOSIUM 2022 が実施されました。今年は会場とオンラインのハイブリッド形式です。

Interview/Presentationセッションに参加した企業は14社。最大手のCapitaLand系列のREITを中心に幅広いセクターのREIT CEOが参加しました。Live Chatセッションで各REITマネージャーへ直接質問できるセッションやアナリストが参加するパネルディスカッションなど盛りだくさんの内容でした。イベントのレビューを3回に分けてまとめていきます。①イベントの様子・REITs Outlookなど全体感 ②シンガポール国内ポートフォリオをメインとしたREITsセッション ③シンガポール国外をメインポートフォリオとしたREITsセッション。

 

今回は第2回目ということで、②シンガポール国内ポートフォリオをメインとしたREITsセッション についてお伝えします。

 

以下7社のセッションになります。(ABC順)

・Ascott Residence Trust

・Ascendas REIT

・CapitaLand Integrated Commercial Trust

・ESR REIT

・First REIT

・Keppel Capital

・Sabana REIT

 

<Ascott Residence Trust>

シンガポールREITを代表するHospitalityリート。シンガポールを中心に15カ国にホテルや住居物件を保有しています。メイントピックとして上がったのは、今年度より投資を拡大しているUSマーケット及び学生寮への投資についての質問。なぜUSの学生寮なのか?という問いに対して「USの学生寮は強いマーケットであり、良い実績を出している。より分散化の効いたマーケットへの投資でポートフォリオを強化している。特に学生の数には注目していて、米国大学は国内学生の比率が高い(UKは留学生比率高い)。そこで、まずはUSマーケットから投資を開始した。」とのこと。今後の戦略として、「コロナ明けのre-openが進んでくれば、留学生比率の高いUKマーケットや,オーストラリアなども狙っていく。」と今後も伸びしろがあるセクターであることが伺えます。「既存のホテル・住居についてはCOVIDが発生したFY20Q2から回復は継続している。直近のインフレは電気代などのexpenseに影響しているものの、他REITと異なり宿泊代に上乗せなどの対策がしやすい点は強みであると見ている。」

Ascott Residenceの銘柄分析についてはこちらの記事でもまとめています。

 

<Ascendas REIT>

AscendasはシンガポールREITで最大のIndustrial REIT。注目トピックは直近で買収を行ったUSの物流施設についての質問。なぜUSの物流施設なのか?という質問に対しては「USは最も大きい不動産マーケットであり、さらにそのUSの中でもシカゴはIndustrial業界で最も大きい。物流施設については、今最も好調かつ伸びているセクター。もともとAscendas REITはTech & LogisticsにFocusする方針を取っていた。IPO以降まずはTechの分野を中心にポートフォリオを拡大してきたが、今はLogisticsを拡大しているフェーズである。オーストラリア、UKと順調に物流施設の取得を進めてきており、ついにUSマーケットへ進出する段階となった。」とのコメント。TechにFocusしている理由としては「シンガポールが国策としてknowlegde economyにfocusしているので、その業界のジャンルに合わせていた。例えばバイオメディカルのR&D,やLife science関連, 半導体など。GrabやChina Tech関連企業もテナントとなっている。」

 

直近の中国やUSのtech企業の株価下落を懸念してるか?という質問については「下落マーケットにも耐えうる優良企業がテナントであり、むしろ安くなったところで買収できるような優良企業ばかり。(=つまり物件の稼働率についても心配していない。)。不動産マーケットについては、「不動産価格が下がれば、安くで良い物件を取得できる可能性もある。Ascendasは信用力があるので他REITより安く資金調達できる。それぞれの現地通貨で資金調達し、各国物件を取得することでFXヘッジしている。」と最大手らしい自信のある回答。

2020年以降のCOVID環境下については「賃料のリベートなどテナントを支えると共に困難を乗り越えてきた。賃料更新等も上手くいっており、質の高い分散されたポートフォリオを構築することができている。」

関連ニュースは以下の記事でもまとめています。

 

 

<CapitaLand Integrated Commercial Trust>

シンガポール最大のREIT。ショッピングモールやオフィスが主な投資先。主な論点はAfterコロナの筆頭としてRetail,Office共にこれから追い風が来るセクターである点。そのような追い風の環境下でどのような戦略を実施しているかが質問の中心でした。「CapitaSpringなどの新規物件取得など恩恵を受けるための体制は整っている。コロナ禍での厳しい環境を逆手にテナントと良好な関係を長期的に築けているのは強み。」ショッピングモールとオフィスそれぞれの環境については「Retail:これから中国ロックダウン解除などで観光客が増えるのは追い風。オンラインとオフラインのオムニチャネルなど新形態が増えたことによりモールの魅力をより高めることができる。Office:オフィススペースの使い方が変わってきており(リモート会議室の整備や広々したオフィス空間など)、新しい需要ができている。」

 

さらにオーストラリアへの投資を拡大している点については「様々なファクターを考えポートフォリオを組んでいる。投資家が他のオプションと比較して魅力的になるよう配慮(分散化、増配など)。CCT,CMTの合併(*以前はCCT:Capitaland Commercial Trust と CMT:CapitaLandMall Trust の2社に分割されていた.)もそのような考えから実現した。長期的な観点をもった時に、シンガポールだけでは投資対象が限られているため、オーストラリアへの投資を実施している。妥当な価格水準・マーケット規模から勘案し、オーストラリアから海外投資を始めた。だからと言って、シンガポール国内での拡大を疎かにするわけではなく、CapitaSpring取得案件のように良い投資機会を常に追っていく。」

直近の決算・ビジネス状況については下記の記事でまとめています。

 

 

<ESR-LOGOS REIT>

Industrial セクター で中規模のREIT。合併によりセクター5位の規模まで拡大。シンガポール,日本,オーストラリアの物流施設がメインポートフォリオ。インタビューでの質問は合併についてがメインで、「合併によりスケールメリットを活かせるようになり、他社と見劣りしない規模まで拡大した。」Industrial REITのセクターはAscendas REITを筆頭に、大手のMapletree系列, Fraser系列のREITもあるなど、上位を追っていくためには規模も重要です。今後の投資機会は?という質問には「物流施設のマーケットは好調であり、まだまだ成長余地がある。Industrialという括りでは、物流施設の他に、TSMCやマイクロンなどのセミコンの設備投資が拡大しているので、そこも投資機会となってくる。」と、半導体関連の話が出てきました。日本でもTSMCの熊本工場設立など、半導体企業による設備投資が話題になっています。シンガポールも国策として半導体には力を入れているため、今後シンガポールREITにどのような影響が出てくるかも注目です。

シンガポールが半導体関連事業にどのように力を入れているかは、こちらの本を読むと理解が深まります。

 

<First REIT>

シンガポール初のヘルスケアREIT。投資対象はインドネシア主体で全体の約75%。今後の成長戦略に対する質問では「2.0Growth Strategyの施策を掲げており、日本など先進国マーケットへの分散化及びポートフォリオの変革を進める。オーストラリア,米国,英国へも5年スパンで拡大させていく。老人ホームだけでなく、関連ホテルアセットも少し持っている。高齢化の人口傾向はヘルスケアにとってメガトレンド。特に先進国ではその傾向が顕著であるので、そこへの投資を進めた。インフレはそこまで大きな問題ではない(日本は相対的にインフレ率低い)。COVIDもセクター的に影響少ないうえに、投資先である先進国のワクチン率も高い。日本も観光など正常化が進んできている。」と日本に関する言及も多くありました。

First REITの日本への投資については下記の記事でまとめました。

 

<Keppel Capital>

Keppel Capital はInterview形式ではなく、スライドを使ったプレゼンテーション。幅広いポートフォリオをそれぞれのセクター毎で投資できることが魅力。OfficeセクターのKeppel REIT, データセンター投資のKeppel DC REIT, インフラを投資先としたKeppel Infrastructure Trust, そして米国市場を投資対象としたKeppel Pacific Oak US REITとPrime US REITがあります。

最新FY2022Q1決算については以下の記事で紹介しました。

 

<Sabana REIT>

シンガポールREITの中では小規模な部類。最大手のAscendas REITと比較すると1/20程度の規模感だが、その分高い配当利回りが魅力(5月末時点で約7.6%)。全てSG物件でポートフォリオを固めており、COVID環境でも高い稼働率を占める。今後の戦略に関する質問には「現状Multi-tenantnedの物件が多いが、Master leaseでの比率を上げていきたい。3-5年で$1 billion以上のポートフォリオ評価額を目指す。」

 

 

以上、シンガポール国内メインのREITsセッションのレビューでした。次回は最終回③シンガポール国外メインのREITsセッションを取り上げたいと思います。