シンガポールREITの為替リスク分析:資産価値・配当に与えるインパクト

シンガポールREITの規模拡大に伴って、シンガポール国外の物件を保有するREITが増えてきています。その際、為替リスクをヘッジし資産価値や配当へのマイナスインパクトを守っているかの分析は安定度を計る上で大切になります。今の日本のように極端な円安となってしまった場合、シンガポールREITのような海外資産からの配当は円ベースで増えるというケースもありますが、本来はボラティリティを抑え安定した配当を出せる銘柄のほうが長期投資に向いています。シンガポールREIT各銘柄の為替リスク管理はどのようになっているのか、モーニングスターよりレポートが出ていますので、下記リストの銘柄を例として分析していきます。

*Price/FVEの値は割合度を示す指標になります。

 

為替リスク分析を行うにあたって、まずは為替ヘッジの仕組みから説明します。

<為替ヘッジの仕組み>

為替ヘッジの方法としては大きく分けて①外貨為替予約によるヘッジ②資産と負債を同通貨で管理するナチュラルヘッジ という方法があり、シンガポールREITでは①②を併用するところが多いです。それぞれの為替ヘッジが配当や純資産価値(NAV:Net Asset Value)にどのような影響を与えるか見てみましょう。

 

まずは配当に与える影響をExhibit 4a図で説明します。

為替インパクトを加味していない配当額が左の欄に記載されています。外貨での賃料収入で発生した為替差損(△NPIの欄)でマイナス影響を受けています。このマイナス影響を打ち消す形で為替予約でプラスのインパクトが発生し、さらにナチュラルヘッジ分の金利がプラスに作用することで、配当額に与える為替インパクトを軽減します。

 

次に純資産価値(NAV)に与える影響はExhibit 4b図のような形になります。

為替インパクトを加味する前のNAVから為替のマイナス影響によって資産価値が減額されます。しかし、ナチュラルヘッジにより借入金部分の外貨に為替差益が出てるため、マイナスインパクトを軽減する形で作用します。

 

<シンガポールREIT各銘柄の為替リスク分析>

上記で、為替ヘッジを理解した上で、シンガポールREITの個別銘柄の海外資産配分を見てみましょう。

各REITの資産の通貨別比率を記載し、ポートフォリオに占めるFXマイナスインパクトの影響を表しています。リストの下に行くほど為替のマイナスインパクトが大きい銘柄になります。例えば、一番上のFrasers Centrepointはシンガポールドル比率100%なので、ポートフォリオに占めるFXマイナスインパクトはなし。Mapletree Industrialもシンガポールドルと米ドルなので、マイナスインパクトなし。むしろ米ドルなので、プラスのインパクトが出ます。一方、一番下のFrasers Logistics and Commercialはシンガポール比率が10%で、残りは豪ドル52%、ユーロ28%、ポンド11%であるため、90%の資産が為替マイナスインパクトを受けていることになります。今やシンガポールREITはポートフォリオの半分以上が国外物件になっているものも多いため、リストの下4銘柄が40%超えとなっています。

 

上記のデータを元に、シンガポールドルが5%高となった場合、配当や企業価値にどれだけの影響があるかを数値化したのが次のExhibit9表になります。

DPU(1株あたり配当)で最もマイナス影響を受けているFrasers Logisticsは-4.5%の影響を受けることになります。配当額が4.5%減るのは大きいですね。一方、CapitaLandは-0.5%のみ、ESR-LOGOSは-1%の影響が見積もられます。例えば配当利回りが6%であった場合、CapitaLandは利回り5.97%と影響をあまり感じませんが、Frasers Logistics and Commercialは利回り5.73%と魅力が減ってしまいます。海外資産を組み入れている銘柄ほど元々の利回りが高い傾向があるので、その分マイナスインパクトも大きくなってしまいます。

 

今回のレポートでは、割安かつシンガポール国内比率が高い銘柄ということでCapitaland Integrated Commercial TrustとESR-LOGOS REITを推奨としています。シンガポール国内向けのレポートであるため、円資産をベースにしている人向けではありません。しかし、今のマーケット下においてもシンガポールドルは比較的安定している通貨で、長期配当を目的としている場合は、シンガポールドルで継続的に配当をもらうことは外貨資産への投資という観点でも優れています。(2022年度の円暴落で外貨資産を持つことの重要性が確認できたと思います)。その観点からも、今回の為替感度の分析レポートは参考になると思います。