【書評】メタバースとは何か 岡嶋裕史

メタバース、Web3というワードが今流行っていますが、本書はメタバースに焦点をあてた書籍です。FacebookがMetaと社名を変えて以降、米国IT企業を筆頭に世界ではメタバースに関する投資が増えています。

フェイスブック社が社名を「Meta」に変更すると発表した。「Meta」とは「Metaverse=メタバース」の「Meta」である。では「メタバース」とは何か? ITに関するわかりやすい説明に定評のある岡嶋裕史氏(中央大学教授)が、その基礎知識から未来の可能性までを解説。「メタバース」は第四次産業革命に匹敵する変革を我々の日常にもたらすのか? はたまた、ただのバズワードで終わるのか?

 

本書は全4章(+プロローグ&エピローグ)で構成されています。

  • プロローグ:メタバースとは何か?
  • フォートナイトの衝撃
  • 仮想現実の歴史
  • なぜ今メタバースなのか?
  • GAFAMのメタバースへの取り組み
  • エピローグ

メタバース初心者から、すでにフォートナイトなど仮想世界に馴染みがある方まで幅広く興味をもって読める内容に感じました。特にメタバースがどう社会・生活を変えるかといった内容はSF映画の世界が実現するようでもありますし、足元のGAFAMと呼ばれる米国大手IT企業がどのように取り組んでいるかといった投資目線でも役に立つ一冊です。

 

筆者はメタバースを「現実とは少し頃なり理で作られ、自分にとって都合が良い快適な世界」と定義しています。世間的には仮想現実であるVR(Virtual Reality)と拡張現実であるAR(Augmented Reality)を含めて幅広くメタバースと呼んでいる場合もありますが、現実世界をベースにしたミラーワールドのような志向のものをデジタルツインとし、あくまで「現実ばなれした都合の良い世界」=メタバースという形で区別しています。

  • 既存のSNSはフィルタリングにフィルタリングを重ね設計されたグループの中に囲い込まれており、それの発展形がメタバースに行き着く。
  • ゲームエンジンはアンリアルエンジンとユニティで世界を二分している。ゲームではフォートナイト、マインクラフト、ロブロックスが人気。これらはゲームを超えて、音楽ライブのイベント、授業や講義が行われるなどメタバースのプラットフォームとなっている。
  • V tuber, NFTなどもメタバース世界への障壁を減らし、コロナ禍で進んだリモート環境もメタバースへの抵抗を減らす。
  • GAFAMの取り組み
    • Meta:プラットフォーム構築、オキュラスのハードウェアなどメタバースに全振り。
    • Google:メタバースを目指さない。グーグルグラスなど現実世界にマッチしたARの領域に親和性があり、そちらに投資。
    • Apple:メタバースから最も遠い。スマートグラス、iPhoneなど現実世界を元にしたミラーワールドを志向。
    • Microsoft:ミラーワールド路線。ホロレンズなどARが主体。MR(Mixed Reality)と謳っているが、これはミラーワールドと実質同義。
    • Amazon:メタバース、ミラーワールドどちらに振れてもAmazonのeコマースでの商いチャンスがある。AlexaとリンクしてARとの関係を構築。メタバース空間はAWS上に構築される。
  • 日本企業はオタク世界で強みがあり、メタバースでのマジョリティを取るチャンス。しかし行政はミラーワールド志向。ミラーワールドでは米国ITには勝てない。
    • ポケモン、マリオなど、ゲームやアニメの世界をベースにするリアルとは異なるメタバースは日本が勝機がある分野。
  • メタバースはVRヘッドセット、ミラーワールドはスマートグラスをデバイスとする。
  • メタバースは最終的には生活全般の包摂を目指す。メタバースでのアイデンティティや恋愛なども出てくるだろうし、取り組むべきことはまだたくさんある。

 

本書に出てきたRobloxやUnityは2021年のIPOブームに乗り価格を大きく上昇させましたが、SPACバブル崩壊と同じタイミングで、2022年10月現在で最高値から80%以上下落するなど大きく価格を下げています。今後のメタバースの発展に伴って盛り返していくのかも注目です。