【書評】不確実性超入門 田渕直也:確率論と心理を結びつけたトレーダー必読の書

投資は不確実性の高いマーケットに対して自分がどのような行動をするかによってパフォーマンスが決まってきます。この「不確実性超入門」には、”不確実性との向き合い方が人生の長期的成功を決める”ということで、投資にも活かせる内容が多い書籍となっています。ちなみにKindle unlimited登録者は無料で読めます。

最強の教養 不確実性超入門

最強の教養 不確実性超入門

  • 作者:田渕直也
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
Amazon

 

そもそも不確実性とは、自分たちの身近にあるもので、投資のみならず、ビジネス上の判断や人生における選択など、意思決定を行う上で必ず関わってくるものです。特に投資においては、相場の行方を正確に予測するよりも"予想外"の出来事にいかに対処するかが成功のカギとなっています。

不確実性にどのように向き合い、そこから生まれるリスクをいかに制御していけるかが、全ての意思決定にとって、決定的に重要な要素となります。

 

本書は下記5章で構成され、

  1. ランダム性
  2. フィードバック
  3. バブル
  4. 心理バイアス
  5. 長期的成功へと導く思考法

それぞれの章で、個人的に気になったポイントを以下抜粋しておきます。

<ランダム性>

  1. ランダムは予測できない。確率に従って起きるもの。
  2. 短期的な勝ち負けではなく、何十回何百回と投資を繰り返した後にトータルで利益を上げることを目指す確率論に従った長期的なアプローチが必要
  3. 結果の予測はできないが、適切にリスクを取り、意思決定を行う
  4. 人はランダム性を誤認してしまい、パターン化して認識してしまう。因果関係を持たないランダムな動きを素直に受け止めることができない心理傾向を生む。そのため、後付けの解説がもてはやされる。(株式などマーケット解説でもよく見られる。。)。しかし、実際世の中にはランダムに満ちている。

<フィードバック>

  • ブラックマンデーやリーマン・ショックなど極端に大きな株価変動は、正規分布の前提で計算するよりもはるかに頻繁に発生している。これはファットテール問題と呼ばれる。全体としては正規分布に形状が似ているものの、その分布の「裾」、すなわち大きな株価変動が起きるエリアでは、その発生確率はべき分布の性質をもつ。=ファットテール。*ナシーム・ニコラス・タレブの「ブラックスワン」でさらに深掘りした話が読めます。
  • ブラックマンデーは明確な原因がなく、「売りが売りを呼ぶ」形でマーケットは暴落した。信用取引でレバレッジをかけている投資家の追証→株価が下がったために機械的に売却を行う機関投資家(金融機関やファンド)のリスク管理による売り→これがループ。たまたま起きただけのランダムな株価下落が、このプロセスを引き起こす可能性がある。このプロセスが始まると、それがどこで止まるかはわからない。
  • 所得や企業価値も同様で、高収入を得ている人ほどさらに高収入の機会を得る「高収入が高収入を呼ぶ」プロセスが発生し所得格差が広がり、大型案件を獲得した企業ほどさらに大型案件を取得する「成功が成功を呼ぶ」プロセスにより企業価値格差も広がる。(米国S&P500内に占めるApple,やMicrosoftが占める時価総額を見ると顕著。)
  • これらのような、べき分布を生む事例に共通して見られるのは、ある結果が生まれた時に、その結果が原因となって結果が再生産されるという自己循環的なプロセス。このプロセスは「フィードバック」と呼ばれる。
  • 株の急騰や暴落も同様のプロセス。買いが買いを呼び急騰し、平均から極端に乖離していくようなものを「自己増幅的フィードバック(=結果を増幅する)」。逆に、上昇し過ぎた株価をみて利益確定の売りがでることで株価が反落していくことを「自己抑制手的フィードバック(=結果を抑制する)」と呼ぶ。どちらのフィードバックが勝るかはわずかな違いで決まり、ランダムな要因が決定的な影響を与える。=これが急騰・暴落を予測できない理由。
  • この取るに足らないわずかな違いがフィードバック・ループにより大きく増幅され、結果をまるっきり違ったものにしてしまう。(例:バタフライ・エフェクト)→サブプライムローンからつながるリーマンショックのような暴落が起きた。

<バブル>

  • バブルは中身のない意味合いがあるが、実際には経済的な繁栄や画期的なイノベーションなど実体を伴った背景から生まれることが多い。南海バブル、ITバブルなど。
  • 群集心理の動きがバブルの本質。バブルはいつか必ず弾けるが、いつ弾けるかを予測することはできない。
  • 人間は「将来を現在の延長線上に捉えがち」。これが自己増幅的な動きにつながる。
  • なぜバブルを予測できないかというと、同じ条件がそろっていても、バブルが起きる時と起きない時があるから。=ランダムで予測不可能
  • バブルの消長を予測することはできなくても、バブルの波で大きな利益を得る可能性はあるので、その可能性に賭けて、できるだけ波に乗る努力をするのが答え。今がバブルかどうか、いつまで続くは関係なく、波が来たと感じたら、とりあえず波に乗り続ける。(=「音楽が鳴っている間は踊り続けよう」戦略。)波に乗りながらも、群集心理の一部にならないように、冷静さ・合理的な精神は持ち続けるようにする。

<心理バイアス>

  • 「バイアス」により皆が同じ方向に間違えてしまう。周囲も自分も同じ方向に間違っているため気づくのが難しい。
  • 不確実性への過小評価し、予測の力を過大評価してしまう。
  • 失敗のパターン
    • 成功体験と自信過剰
      • 過去の成功に過信し、新しい環境に適応できず失敗する。成功から学ぶのではなく、失敗から学ぶべき。
      • 成功を過大視しない。自分を過信しない。予想外のことが起きることを想定し、予測が外れても破滅的な状況に陥らないように常に注意を怠らない。その代わり、失敗すること事態は恐れずにトライを繰り返していく。
    • サンクコストと自己正当化
      • サンクコストではなく、「時価」で考える。過去に縛られない。
    • 希望的観測と神頼み
      • 苦しい時ほどリスク鈍感になり、希望的観測をしてしまう。「今はまだそこまでやる必要はない」と考えず抜本的対策をすぐ実行すべし。
    • 異論の排除と意見の画一化
      • 異なる視点の重要性。

<思考法>

  • 予測に頼らない。予測は外れて当たり前。特に多くの人が納得しやすい、つまりコンセンサスが得やすい予測はとりわけ外れやすい。コンセンサスと違う方向にこそ大きく動く性質がある。
  • 予測できないことに予測することで対処しようという考え方がそもそも間違い。(予測をするなという意味ではない。)予測は単なる仮説にしかすぎないことをまず理解する。僅かな兆しをもとに、それが予想外の大きな動きにつながるかもと、様々なシナリオを思い描き続けることが大切で、最初にたてた特定の予測にこだわってはいけない。
  • 自分の予測が外れることを想定しながら、リスクをコントロールして最悪の事態を避け、たまにやってくる大きなチャンスを逃さないように心がける。
  • 不確実性を前提とすると、総得失点と勝率は直接的に結びつかない。勝率を引き上げることで、長期的な総得失点が犠牲になることもある。1回1回の勝ち負けにこだわり勝率を追求しないように。それは「わずかな確率で巨大な損失を被る可能性と引き換えに、わずかな利益を得る確率を引き上げてるだけ」で期待利益のないケースもある。勝率ではなく、長期的な観点で成功を取れるようにする。
  • 短期的には、間違ったやり方で成功し、正しいやり方で失敗することもある。ただ、正しいやり方を繰り返すことで、長期的には成功につながる。大きな失敗を避けるためには小さな失敗を許容する。(=トレードの損切り。)。損失を早期に確定させることは勝率を下げることになるがそれでよい。数多くの失敗を許容し、致命傷を負うことなく大きなチャンス(自己増幅フィードバックが働く局面)を待つ。
  • 不確実性に備えることは、全ての意思決定者がわきまえておかなければならない意思決定の本質そのものである。

少し多めの抜粋となりましたが、それだけ重要なエッセンスが多く含まれている書籍だと感じました。抜粋しきれなかったコンセプトも多数記載されているので、ぜひ読んでもらいたい一冊です。